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広島地方裁判所 昭和46年(行ク)16号 決定 1971年8月05日

申立人 児玉隆博

被申立人 広島県公安委員会

訴訟代理人 片山邦宏 外八名

主文

申立人の本件申立を却下する。

申立費用は、申立人の負担とする。

理由

一、申立の趣旨および理由

別紙「行政処分執行停止申立書」記載のとおり。

二、被申立人の意見

別紙「意見書」記載のとおり。

三、当裁判所の判断

(一)  本件申立と疎明資料によれば、申立人は被爆者、被爆者二世によつて結成された被爆者青年同盟(以下、被青同という)の代表であるが、佐藤首相来広、原爆死没者慰霊式・平和祈念式典(以下、祈念式典という。)出席反対、被爆者団体協議会の援護法制定要求支持のため、集団示威運動(実施日時・昭和四六年八月六日午前八時四〇分から、実施場所・平和公園正面入口-白神社交差点ー広大正門前)を行うべく昭和四六年七月三〇日昭和三六年広島県条例第一三号「集団示威運動、集団行進及び集会に関する条例」(以下、広島県公安条例という。)五条に基づき、被申立人に対し、集団示威運動の許可を申請したところ、被申立人が、同年八月三日付をもつて、右許可申請にかかる集団示威運動の行進順路のうち出発地点を平和大橋東詰の付近北側緑地帯と変更してこれを許可する旨決定したことが認められる。

以上の事実関係からすると、集団示威運動の本質にかんがみ、進路の一部変更に関する本件申立については、処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるものと認めるのが相当である。

(二)  ところで、本件疎明資料によばれ、祈念式典の行われる平和公園の位置及び付近の地理関係は別紙図面のとおりであり、平和公園正面入口から平和大橋までの距離は約八〇米であること、右式典参加者は、相生橋(幅七・二米、長さ六三・六米)、本川橋(幅八・八米、長さ七四・三米)、西平和大橋(幅一五米、長さ一〇九・八米)、平和大橋(幅一三・四米、長さ八六・二米)、元安橋(幅七・九米、長さ五一・九米)と平和大橋と西平和大橋間の平和大通(幅一六・四米、長さ三五〇米)のいずれかを渡つて、公園内の進路を通り、原爆慰霊碑付近に参集するほかないこと、記念式典は昭和四六年八月六日午前八時に開会され、午前八時四〇分に終了する予定であること、右式典には五万人を上廻る参加者が、式典開会の数時間前から六つの右各進入路を通つて参集する見込であり、午前八時四〇分に式典が終了した後、これらの参加者の多くは原爆慰霊碑などに参拝して帰路に着くため、例年、式典終了後一、二時間は平和公園正面入口付近を含め公園内の通路や右各進入路は相当混雑すること、佐藤首相は、祈念式典に列席した後約三〇分間原爆資料館を見学し、午前九時一〇分頃同所を出発し、広島原爆養護ホームに向う予定であること、他方、本件申立人をその代表者とする被青同は、昭和四五年八月被爆者の人間的解放を目ざして組織されたものであるが、被爆二六周年の今次祈念式典に佐藤首相の列席が伝えられるや、いちはやく「八・六佐藤来広・祈念式典出席実力阻止」の宣言をし、佐藤首相を戦後一貫して被爆者を見殺しにしてきたものであるとして、その来広を自らの血と肉体でもつて阻止する決意を固め、パンフレツトなどを通じ、全国の労働者、市民、学生、高校生に被青同とともに佐藤首相来広実力阻止闘争に決起するよう呼びかけていること、また、被青同は、昭和四六年七月五日から同年八月三日までの間に、佐藤首相の来広、祈念式典列席を阻止するためと称して、数回にわたり平和公園内や広島市役所廊下に集団で坐り込みを続け、広島市長に面会を強要し、警察官によつて排除されたことがあること、本件集団示威運動には約四〇名の者が参加する予定であることが認められる。

以上認定の事実、ことに平和公園付近の地理関係、形態祈念式典参加者が帰路に着き、佐藤首相が平和公園を去る時刻と本件集団示威運動の出発時刻が重なること、被青同の佐藤首相来広、祈念式典出席実力阻止に対する決意とその性格などを併せ考えると、本件集団示威運動が申立人の申請どおり平和公園正面入口を出発点として行われると、右運動の参加人員を考慮してもなお、不測の混乱が起り、式典参加者に危険が生ずるとともに、付近の一般交通が広範囲にわたつて著しく阻害されるおそれがあると認められる。

このようにみてくると、本件申立は、行政事件訴訟法二五条三項にいう、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、に該当すると認めるのが相当である。

(三)  よつて、申立人の本件申立は理由がなく失当であるからこれを却下し、申立費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 五十部一夫 川口春利 稲澤勝彦)

別紙「申立書」及び「意見書」<省略>

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